2024年4月16日から4月21日までの6日間、イタリア・ミラノで開催された「第62回ミラノサローネ国際家具見本市(以下サローネ)」。総来場者数は37万人、前年度比20%増、2年前と比べて11万人増と大幅に伸長した。
サローネ会期にあわせて、今年もミラノ市内では家具やインテリアのショールームでの展示のほか、デザインをタイトルに冠した大規模イベントが市内各地で開催。これらは「フオーリサローネ(見本市の“外”の意味、以下、フオーリ)」と呼ばれる。フオーリもコロナ前の賑わいが完全に戻っている印象で、LVMHグループ、Google、Amazon、IKEAなどが大規模な展示をおこない、数時間待ちの入場行列をつくっていた。
サローネとフオーリを総称したものを「ミラノデザインウィーク」と言い、多種多様な展示やインスタレーション、新ブランドや新製品の発表、デザイナーの自主的なプレゼンテーションなどが高密度に集積する。世界を見渡してもミラノに匹敵する存在はないだろう。
コロナ禍でオンラインミーティングが当たり前になり、ネットやアプリ、SNSなどのデジタルプラットフォームへの注力が世界的に加速したが、ミラノデザインウィークの今年の状況を見ると、見本市やイベントといったリアルへの期待、求心力は変わっていないようだ。むしろ、期間限定だからこその濃密さという特徴は、さらに明瞭に感じられた。
ミラノデザインウィークの核であるサローネ。そのインターナショナルプレスカンファレンスにて、代表のマリア・ポッロ氏とサテリテ創始者のマルヴァ・グリフィン氏の話を聞いた。
2021年にコロナ禍という困難な状況で代表になったマリア氏、サローネを率いて3年目となる。その発言には家具業界のみならず世界をリードする見本市としての気概を感じた。もちろん、好調な来場者数という裏付けもあるだろう。ある記者から、今回の企画展のテーマに「サステナビリティ」が無いことを問われたマリア氏は以下のように答えた。
「サステナビリティについては3年前に扱った。当時、対応している企業は多くなかったので特別なテーマとしたが、いまでは当たり前になっている。サローネとしてもサステナビリティ・ポリシーを刷新しており、今後も継続して業界を牽引する取り組みに挑んでいく。いまのテーマならば、たとえばAIだ」。
一方、25年前に若手デザイナーの世界的な登竜門であるサテリテをはじめたマルヴァ氏。今回はミラノ市内の会場で25周年の展示がおこなわれ、立役者として多くの人に祝福されていた。プレスカンファレンスでは、サテリテがはじまった頃に子どもだったマリア氏のエピソードも聞かれ、二人の信頼関係の長さと強さを思わせた。
二人の話から感じるのは、見本市とはどうあるべきかという哲学の存在だ。新製品発表や商談の場であるだけでなく、業界を先導する情報発信、次世代の育成とマッチング。それを実践し、結果を出してきた自負がその哲学をさらに強固にしているのだろう。
イタリアを代表する2つのブランド
サローネの定番ブランドは「これは建築物?」と錯覚するほどつくりこまれた巨大なブースを展開する。パブリックエリアとプライベートエリアの分離も一般的になっていて、プライベートの方が大きな面積を占めていることもある。当然、アポイントが必要だ。感染症対策もあるが、混雑し本来の世界観を提示できないことを改善するためとも聞く。
ブースに足を踏み込むと、さまざまなインテリアシーンが余裕ある空間の中で次から次へと展開される。一気にその世界観に没入させてしまうプレゼンテーションは圧巻だ。しかも、そうしたブースが数多く並んでおり、この規模感はほかの見本市では経験できないことだ。今回は代表的な2ブランドを紹介する。
■Molteni&C(モルテーニ)
イタリアを代表するブランド「Molteni&C(モルテーニ)」。2024年に90周年を迎えた老舗で、1961年のサローネ発足にも関わっている。高い技術を活かしたシステム収納で知られるが、椅子やテーブル、キッチン、ベッドなども展開する総合家具ブランド。近年はアウトドア家具も手がけている。また、今年はさらにそれらの延長として扉や壁などの建具も展開しはじめた。
■Kartell(カルテル)
同じくイタリアを代表するブランド「Kartell(カルテル)」。フィリップ・スタルクをはじめ、日本人では吉岡徳仁など著名デザイナーとのコラボレーションが多い。プラスチックを使った椅子が有名で、伝統的な家具ブランドとは一線を画したモノづくりとブランドイメージで知られる。
今回はミラノ市内の情景を演劇の背景のように見せて、ソファ、机、照明、アウトドア家具などの新製品を発表。ガラス、木材、アルミニウムなど素材や技術への新しい取り組みにも積極的で、毎年異なる側面を見せている。
サローネ出展の日本の家具ブランド
2024年のサローネに出展した日本の家具メーカーは6社、そこから5社を紹介する。カリモク家具とRitzwellは2008年から、マルニ木工は2009年から参加。これらベテランの3社に加えて、今年初出展のアダルとナガノインテリア工業という顔ぶれだ。以下、出展メーカーのコメントを紹介する。
■カリモク家具
カリモク家具株式会社、代表取締役副社長の加藤洋氏は今回の出展について、「今年のミラノサローネでは、自社ブランドであるKarimoku Case、Karimoku New Standard、MAS、SEYUNの計4か所の単独展示に加え、デザイナー武内経至氏主催の『walking sticks & canes』へのスポンサードなども実施し、当社にとって過去最大規模の出展をおこなった。
ヨーロッパだけでなく、中東やアジア圏など他地域に対して、各ブランドの個性や魅力の発信、そして母体であるカリモク家具全体の認知拡大に繋がったと感じている。特に今回が初の単独出展であるMASにおいては、ブランドが海外の目線でどのように評価されるのかを確かめることができ、今後の国際的な展開に向けた良い試金石となった」と、コメントした。
■マルニ木工
株式会社マルニ木工の代表取締役社長、山中洋氏は以下のようにコメント。「いままでのMARUNI COLLECTIONは、ダイニングアイテムが中心となっていたが、リビングアイテムを強化すべく、深澤直人氏、ジャスパー・モリソン氏、セシリエ・マンツ氏の3名と開発を進め、それぞれ特徴のある商品を発表した。3人がデザインしたアイテムはどれも総じて反響が良く、特にデザインの美しさや細部にわたる緻密なモノづくりにおいて、高い評価をいただくことができた。
また今回のリビングアイテムでは、環境負荷の低減、輸送コストの低減、二酸化炭素排出量の低減などを考慮し、モジュール化やノックダウン仕様などを取り入れたことも評価に繋がった。ビジネスにおいては、北米の新規ディーラーとの商談も進み、今後の展開に繋がる機会となった」。
■リッツウェル
株式会社リッツウェル、代表取締役兼クリエイティブディレクターの宮本晋作氏は、「リッツウェルは今年のサローネに14回目の出展を果たし、『New Sustainable Value』をテーマに新商品と新マテリアルを発表しました。リッツウェルが考える持続可能性とは、自然と環境への感謝と循環です。『自然との対話』『心地よさの存在感』『愛着の創造』を重視し、本質的な持続性は“心地よさ”から生まれると確信しています。これらの課題は美しさ、機能性、時間から生まれる“愛着”であり、リッツウェルは創業時から、トレンドに左右されない、永く愛用されるデザインを目指してきました。
これは美しさと機能性の追求、自然素材への敬意、人の手による丁寧なモノづくりによって実現されます。2022年からはじめた職人のデモンストレーションは今年も大いに盛り上がり、新たな空間イメージと共にリッツウェルの理念を多くの人々に伝えることができたと思います」と、話した。
■アダル
株式会社アダルの経営企画室室長である葉玉研治氏は、「古くは古事記に記載があり、1300年以上の歴史を持つとてもサステナブルな日本のい草産業だが、生活様式の欧米化、輸入、人工い草の普及にともない、その産業規模は過去30年で10分の1以下に縮小し、未来への存続自体が危機的な状態となっている。モダンなデザインの家具にい草を使うことで、その魅力を世界中の生活シーンへ届け、い草産業を未来へ存続させることが私たちのブランドミッション。
2019年からフオーリに3回出展し、今回はじめてミラノサローネへの出展となったが、運営サイドに私たちのミッションを評価いただけたのか、とてもよいロケーションで、多くのビジネスにつながる出会いに恵まれた」と、コメント。
■ナガノインテリア
ナガノインテリア工業株式会社、販売部販促課の藤田氏は「世界で通用するブランドに成長させていき、社員が誇りを持って仕事(家具づくり)のできる会社にしていくため、出展しました。展示商品に関しては、デザインコンセプトである『THINK BASIC』を表現するナガノインテリアを代表するダイニング、リビング、約40アイテムを一同に出品いたしました。
シンプルなデザインや使い手が自由にカスタマイズできるオーダー性、お客様の暮らしに寄り添った機能面について、より関心を持っていただけたと感じました。同時に物流やインフラの課題とデザインをもっと突き抜けたものにしていかなければいけないと考えています。今後の販路拡大やデザインを含めた品質の追求に向けての大きな足掛かりとなりました」と、コメント。
2024年のサローネは35か国から1,950の展示(出展企業1350社とサテリテ参加デザイナー600人)、著名家具ブランドの巨大なブースが立ち並ぶなか、各社ともそれぞれの特徴を明瞭に打ち出したプレゼンテーションだった。
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