「HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE(オム プリッセ イッセイ ミヤケ)」にとって、2024年の秋冬コレクションは特別なシーズンでした。デザインのジャンルを超えて話題となったのは、デザイナー/アーティストのロナン・ブルレック氏によるドローイングとのコラボレーション。
2023年にブランドの10周年を迎えたこともきっかけに、1年強という時間をかけて挑戦したこのプロジェクトからは、技法も見え方もさまざまなバリエーションの衣服が誕生しました。今回のものづくりの裏側について、オム プリッセ イッセイ ミヤケのチームに聞きました。
現代を生きる人のための新しい日常着
「HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE(オム プリッセ イッセイ ミヤケ)」は、三宅一生氏の思想を引き継いだ「プロダクトブランド」です。流行に左右されないシーズンレスなデザインを追求し、「現代人のための新しい日常着」をコンセプトに掲げています。
製品プリーツと呼ばれる、規則的でアイコニックなプリーツがかかったアイテムは洗っても乾きやすく、持ち運びも便利なのが特徴です。メンズブランドとして立ち上がりましたが、いまでは女性の着用も増えています。現在、約10人ほどのチームでものづくりが進められています。
ブランドとして10年の節目を迎え、チーム内でものづくりへの新しい刺激を求めていた頃、オム プリッセ イッセイ ミヤケチームからブルレック氏に対してアプローチがおこなわれました。
2024年の秋冬シーズンで発表された、フランス・パリを拠点に活動するロナン・ブルレック氏とのコラボレーションのはじまりです。
色彩の美しいドローイングを「動かす」
「はじめてマーカーの線を重ねたドローイングを見たときから、プリーツをかけて動かしてみたいと思っていました。色彩もすごくきれいで、どのように動くのだろうかと」。
人が着用することによって動きが生まれる、オム プリッセ イッセイ ミヤケの衣服。ブルレック氏によれば、さまざまなブランドからドローイングを使用したいという声があったなかで、唯一受けたのがイッセイ ミヤケからの依頼でした。ほかのファッションブランドとは異なるものづくりの仕方に共感していたのが理由だそうです。
コラボレーションが決まるやいなや、いきなり200ほどのドローイングのサンプルを送ったブルレック氏。送られてきたドローイングの数量に驚いたチームですが、これをきっかけにスタディがスタートしました。
スタディは、大きく2つの軸で進みました。一つはドローイングを再現するための技法の選定、もう一つはプリーツによるドローイングの変化の研究です。本来であれば半年早く発表する予定でしたが、時間をかけて良いものにするために立ち止まり、普段ではやらないようなリサーチも重ねたと言います。
「どの角度からプリーツをかけるかは、最初から検証を重ねました。ドローイングに対して縦横斜め、さまざまな角度を試みています。少しだけ斜めにプリーツをかけるとモアレが生まれて異なる表情が見えてきます」。
最終的に33作品が実際のアイテムとして完成しましたが、それ以外にも多くの作品で実験したと言います。また同時に進められたドローイングのテクスチャの再現には、以下のコメントにあるようにさまざまな趣向が凝らされました。
「ブルレック氏のドローイングはそれぞれ画材が違います。マーカーを使ったり、ボールペンを使ったり。マーカーの場合は7~8色使っているものもあり、衣服づくりだとシルクスクリーンで版を分けて色を重ねていく作業に一番近いと思いました。
「ボールペンのような細かい線は糸に見えたため、刺繍やゴブラン織など、繊細で質感のあるものが合うだろうとか。バッグにはタイルの作品を用いて、膨らみ感をどう表現するか、話し合いながら進めていきました」。
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